0604 誰かに「間違ってないよ」って言われたいじゃないですか

アラサーに刺さるエッセイ3選+1
切実@書店員YouTuber 2023.06.04
誰でも

 こんばんは、切実です。28歳です。独身のOLです。結婚は、したほうがいいかなって思ってるけど、絶対にしたいわけじゃないし、焦ってもいません。ひとりで行ける場所も増えてきて、お給料をすべて自分に使えるのっていいなって思ったりしてます。でも、いいなと思える人に出会えたら結婚しちゃいたいなあって、だって、別れるのとかしんどいじゃないですか。かといって、積極的に出会いを探す意欲はなくて。老後ひとりなのやばいかもって漠然と恐怖はあるんですけどね。仕事ですか?仕事はぼちぼちですね。とくに話すようなことはないです。恋愛も仕事もそんなんで人生楽しいの?って聞かれると、それは全然楽しいんですよ。アイドルを応援するのは楽しいし、友達もわりといるし。気楽ですよ、今のところ。でもね、どうしても付きまとうんですよ。これでいいのかな?って。

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若林正恭『ナナメの夕暮れ』文春文庫

  オードリー若林の6年間の集大成エッセイ「おじさん」になって世界を肯定できるようになるまで書き下ろし17,000字!「明日のナナメの夕暮れ」収録恥ずかしくてスタバで「グランデ」を頼めない。ゴルフに興じるおっさんはクソだ!――そんな風に世の中を常に”ナナメ”に見てきた著者にも、四十を前にしてついに変化が。体力の衰えを自覚し、没頭できる趣味や気の合う仲間との出会いを経て、いかにして世界を肯定できるようになったか。「人見知り芸人」の集大成エッセイ。解説・朝井リョウ  
文藝春秋BOOKS

 人見知りで面倒くさい人だった若林さんが、四十歳手前になってどのように内面が変化し、世界を肯定できるようになったのか。その軌跡が書かれているエッセイです。

 オードリーって包丁とまな板みたいだなって思ってたんです。春日さんが傷に強くてなんでも受け止められる白くて広いまな板で、若林さんは危なっかしくて社会に立ち向かって刃がガタガタになっている包丁。春日さんがそこにいてくれるから、若林さんは思い切り刃を落とせる、それがオードリーの関係性かなって。

 わたしは、そんな若林さんを見てると安心したんです。「生きづらい」を全身からこぼしながら表に出てきちゃう。その人間味に救われていました。わたしは若林さんほど世の中を憎んでないし、生きづらさも感じてないけれど、心の奥底にある真っ黒でべっとりした嫉妬心とか利己心とかが肯定されたような気がして。

 でも、『ナナメの夕暮れ』を読んで若林さんは変わったんだなと感じました。それは、’向こう側’の人間になってしまったということではなくて、社会を理解しようとまなざし続けて言語化しようと切り込みを入れ続けてきた刃が、ついに風穴を開けたような感覚なのかなと。そこから吹いた風が、見えた真っ赤な夕暮れが、戦いを終わらせたような、さわやかな変化を感じる一冊でした。

 周りが気になるというより、意識が自分に向いてしんどいって人におすすめです。どうして自分はこうなんだろう、どうやったらうまく生きられるんだろうと、脳みそ焼き切れそうになるまで自問自答してしまう人は、いったん若林さんと会話してみるのはいかかでしょうか?

島田潤一郎『あしたから出版社』ちくま文庫

本当は就職をしたかった。でも、できなかった。33歳のぼくは、大切な人たちのために、一編の詩を本にすること、出版社を始めることを決心した―。心がこもった良書を刊行しつづける「ひとり出版社」夏葉社の始まりから、青春の悩める日々、編集・装丁・書店営業の裏話、忘れがたい人や出来事といったエピソードまで。生き方、仕事、文学をめぐる心打つエッセイ。
筑摩書房HP

 小説家を目指してアルバイトや派遣社員をしていた日々から、ある出来事があって「ひとり出版社」として方向転換した島田さんの自伝的エッセイです。読んでいると、まじめに素直にていねいに働くということの大切さが刺さります。

 結果が出るまでやり続ければ結果が出るわけですが、それにどれだけの時間がかかるのかが分からないから諦めてしまうじゃないですか。島田さんは行動し続けているところがすごいと感じました。

 こうやって読むと、出来事がトピック化されているから、結構とんとん拍子に進んでるように思ってしまいます。でも、うまくいかない日々、その一日一日があるわけで、「どうなるんだろう」「これはやばいかも」と胃が痛くなる時間もあるんですよね。書かれていないだけで。

 本当にやりたいことがあるけれどとりあえず今の仕事を続けてる人や、今の仕事に不満はないけれどモチベが下がってきた人にオススメです。

燃え殻『すべて忘れてしまうから』新潮文庫

人生はままならない。だから人生には希望が必要だ。深夜ラジオを聴いた部屋で、祖母と二人きりで行った富士サファリパークで、仕事のためにこもった上野のビジネスホテルで、仮病を使って会社を休んで訪れた石垣島で、ボクが感じたものは希望だったのか――。良いことも悪いことも、そのうち僕たちはすべて忘れてしまう。だからこそ残したい、愛おしい思い出の数々。著者初のエッセイ集。
新潮社HP

 あっさり言ってしまうと、くたびれたおじさんの「やってられないこともあるけど、やっていくしかないんだよなあ」っていうエッセイです。仕事では理不尽な怒られに堪え、過去の恋愛で繰り返し感傷に浸って、お酒を飲んで終電を逃して新宿のビジネスホテルに向かう燃え殻さんの後ろ姿が何度も浮かんできました。

 95点の日を思い出しながら、9点と38点と57点の日々を行ったり来たりして、ときどき89点の日があってまた頑張れる。そんな繰り返しで続いていくのかなと思っています。本当は毎日100点が欲しいけれど、意気込んだ日に限って2点だったりして。やるせなさをだましだまし生きているのかもしれません。

 人生は最悪でしょうか?目が覚めることは絶望でしょうか?

 18点の帰り道でコンビニで酒とつまみ買って家で飲んだら35点くらいになったり、昨日は5点でも今日はいい出会いがあって83点になったりするから、生きていけるんじゃないでしょうか。2点の日も95点の日も、また来ることを知っているから安心して忘れて生きていけるんじゃないでしょうか。

 毎日が高得点♩と思える人はとっても素晴らしいことで、わたしも出来ればそのマインドで生きたいけれど。それが出来ないから、こういう本を読んで加点しているわけです。ちょっと点数低い日に読んでみてはいかがでしょうか。

山崎ナオコーラ『指先からソーダ』河出文庫

けん玉が上手かったあいつとの別れ、誕生日に自腹で食べた高級寿司体験、本が“逃げ場”だった子供の頃のこと…朝日新聞の連載で話題になったエッセイのほか、「受賞の言葉」や書評も収録。魅力全開の、初エッセイ集。
『BOOK』データベース

 女子高生のわたしが、ジャケ買いしたエッセイです。ヴィレヴァンの本棚がやたらと輝いてみえたあの頃。(大槻ケンヂ『神菜、頭をよくしてあげよう』(河出文庫)もヴィレヴァンで買ったなぁ~)当時は「わたしも大人になったら誕生日に一人で高級寿司とか食べたいなあ」と、ふんわり夢見る程度の感想しかありませんでしたが、12年経って立派なアラサーとなった今読むと、なんだかとてもちょうどいいエッセイでした。一人で行ける寿司屋は見つけられていませんが。このエッセイは山崎ナオコーラさんが、20代後半に書いたものということで、かなり世代ドンピシャでした。自由で明るくて健やかな女友達って感じが良かったです。

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