0610 この関係に名前はまだない
切実です。晴れ女です。昔から、どこかに出かけるときに雨だったことがあまりありません。でも、晴れた日に「やっぱり晴れたね~」と思っているから印象に残っているだけで、雨の日のことは気にしてないだけかもしれません。晴れ女だから雨の日にしっかり片頭痛になるのかもしれません。雨だし頭痛いし身体もだるい。そんな梅雨の日は、しずかなコミックスを読んで過ごしませんか☔
田沼朝『四十九日のお終いに』
大事なものはいつも傍にあった。厳格な父に縛られ生きてきた青年・石川。父の死後、どこか様子がおかしくなってーー。男性ふたりの特別な友情を描く表題作「四十九日のお終いに」ほか、漫画誌ハルタに掲載されたすべての読切&商業未発表作品を収録。描き下ろし漫画「四十九日のお終いに -その後-」全10ページは必見!デビュー連載『いやはや熱海くん』第1巻と同時刊行。
表題作はもちろん、ほかの短編も良かったです。キュンキュンするわけでも、膝を打つような共感があるわけでも、ないんですけど。でもなんか、ちょっといいなあと思うし、ちょっと分かるなあと思うような。居酒屋で隣の席に座った人たちが話していたら、わりと気になるかもくらいの感じ。これくらいの”良さ“を、求めている現代人が多いんじゃないでしょうか。
お気に入り①『旅は道連れ』クラスメイトの彼女に電車で遭遇して、わけわからん青春に付き合わされる話。超短編で、なにも起きないです。学生時代の暇と青春を持て余した雑な時間の使い方って本当にいいよなあ。もう二度とないんだ青春は……。(学生モノに触れると毎回この落ち込みムーブが来ます)
お気に入り②『桃と道行き』なにもわからない兄を持つ妹と、なぞの男の話。わたしも弟が二人いますが、弟たちのことがなんもわかりません。好きな食べ物も、恋人の外見も。血がつながった家族といえども、知らないことの方が多くて、それでべつにいいのかもしれないです。誰かが代わりに見てくれているはずなので。
大白小蟹『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』
俵 万智「小蟹さんの澄んだ心の目。そのまなざしを借りて私たちは、忘れそうなほど小さくて、でもとても大切な何かを見つめなおす。たしかに降ってきたけれど、とっておけない雪のように。」雪のように静か。冬の朝のように新鮮。自分の気持ちに触れることができるのは、こんな時かもしれない。
ホームページに詳細にそれぞれの短編のあらすじが載っているので、ネタバレが嫌な人は見ない方が良いかもしれません。バズっていたのを見かけた方も多いと思います。『トーチweb』に掲載されていたものが単行本化されたものです。
7つの短編それぞれ最後に短歌が詠まれていて、それがまた作品にピッタリで素敵な余韻が残ります。とくに好きだったのは、『きみが透明になる前に』その人をその人たらしめるものって、なんでしょうか。顔?声?ぬくもり?いっしょに過ごした記憶?ある日とつぜん、夫の姿が見えなくなったら。声も聞こえるし、たしかに存在はあるのに、姿だけが見えない。透明人間になってしまった夫の外見を忘れないでいられますか、音もなくいなくなったら気がつけますか。透明人間になる、という非現実的な出来事ですが、どこまでもリアルな夫婦の心情に二人の幸せを願わずにはいられません。
働きながら「切実」として創作(創作?なんか違うかも)活動(活動というほどか?)をしている身としては『海の底から』も良かったです。わたしも、銀色に輝くまぐろになれるのでしょうか。学生時代の友人に会うと、「すごいね」「応援してる」と言ってもらいますが、どこへ向かえばいいのかわからないでいるので、曖昧に笑って流してしまいます。本当は、本当はもっと胸張って頑張ってるよって言いたいですが、まだまだ波に乗れずに浅瀬でおぼれているような日々です。
町田洋『砂の都』
「すぐに忘れてしまうことと、どうしても忘れられないことの違いってなんだろう」。これは不思議な砂漠の孤島に生きる人々の「記憶」と「建物」を巡る物語。漫画界大注目の俊英・町田洋(『惑星9の休日』、『夜とコンクリート』)が贈る、ロマンティック・デザート・ストーリー!
町田洋さんの10年ぶりの新刊!…だそうです。正直わたしはあまり存じ上げておらず、三省堂時代の友人が熱を込めてプレゼンしてくれたので買ってみた次第です。独特な絵柄と静かでぬるい夜みたいな空気感が癖になるコミックスでした。
彼らは訥々としゃべり、表情も乏しいけれど、感情はどこまでも豊かで広い。人がいなくなって、語る人がいなくなっても、建物が覚えているものがあるというのは『地図と拳』(小川哲)でも語られていましたが、本作もそういうことなのかなあと思いました。
簡単な線で描かれていますが、簡単な絵ではなく、町田さんの世界観がしっかりあるからこその独特な作風として確立されているんだと感じます。これを「ただの雰囲気モノ」と捉えるか「味がある」と感じられるかは、もう好みの問題だと思うんですが、わたしは好きでした。純文学を面白いと思う人は楽しめるかもしれません。
林史也『煙たい話①』
高校卒業以来、一度も会うことのなかった武田と有田。ある雨の日に一匹の猫を拾ったことから、二人の関係は変わり始める。恋愛感情とは違う。一緒に暮らす理由もない。でも、隣にいるのは心地がいい。そんな気持ちに向き合い、二人が出した答えとは――。
こちらは連載で、現在2巻まで発売されています。BLではない、ブロマンスとも違う。カテゴライズしようとすることがナンセンスなのかもしれないけれど、他人に説明するときに適切な言葉が見つからない。この関係の名前は何?友達でいいじゃないと思いたくなるんですが、大人の男性(正直絵柄的には高校生に見える気になる)2人が突然一緒に暮らすのはやっぱり不自然?
「恋愛」の枠に収まるのか、「友達」とするのか、「無名」のままいるのか。
まだ1巻しか読めてないですが、丁寧に描かれていく2人の生活がなるべく長く続くといいなぁ。そんな急に恋愛とか、試練とかなくていいので、妙齢の男性がとくに理由もなく「居心地がいいから一緒に暮らすことにした」それだけでいいじゃないですか!と思うので。
前回のレターでは、ひさびさに皆さんからお返事がたくさん来てうれしかったです。わたしと同じように、悩んだりあれれ~と思ったりしながら日々を過ごしている仲間がいるんだなあと思うと心強いですね。皆さんにとってわたしの活動がちょっとでも支えや楽しみになっているならば、それだけでつづける理由になります。皆さんからのお返事はいつでもお待ちしております。返信はしていませんが、全部ぜんぶ読んでいます。「好きの盾」をいつもありがとう!
YouTubeもニュースレターもマイペースにやっていこうと思うので、引き続きよろしくお願いいたします。それでは、また!
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