0618 どんな目でわたしを見てる?
こんばんは、切実です。芥川賞候補が発表されましたね!正直に言うとあまり意識していないんですけど、TLに流れてくるとやっぱり「ふ~ん」って思って持ってる文芸誌に掲載されていないかを一応確認してしまいます。ということで、今回持っていた『文藝夏号』『文學界5月号』にそれぞれ掲載されていた2作品の感想を書きます。
※※※以下、ネタバレ注意です※※※
市川沙央『ハンチバック』
井沢釈華の背骨は右肺を押しつぶす形で極度に湾曲し、歩道に靴底を引きずって歩くことをしなくなって、もうすぐ30年になる。両親が終の棲家として遺したグループホームの、十畳ほどの部屋から釈華は、某有名私大の通信課程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。ところがある日、グループホームのヘルパー・田中に、Twitterのアカウントを知られていることが発覚し——。(文藝春秋HPより引用)
ハプニングバー潜入記事から始まり、ソープで働く女の子の話で終わるこの物語からは、安直ですがめちゃくちゃ性というか精液を感じました。急に直接的な言葉を出してビビらせてごめんなさいね。しかも太字にまでして。溜まる痰を機械で吸引する、下書きに溜めたツイートを公開するとか、その「溜まったものを放出する」感じがすごくソレじゃないですか?
釈華は人工呼吸器をつけているため、基本的に声を出すことはしません。ジェスチャーか音声ソフトか文面で意思を伝えています。ライターとして書く記事、大学の課題、LINE、ヘルパーとのやりとりでは、声帯を震わせることがありません。ただ、物語の中で唯一、声帯を震わせることがありましたね。
それは、ヘルパーの田中さんと会話するときです。田中さんは釈華より年下の男性ヘルパーで、釈華のことを良く思っていません。入浴介助をしてもらったあとの部屋で二人はある契約を取り交わし実行に移しますが、そのときだけ釈華はずっと自分の声を出していました。そして、その震わせていた声帯は汚されました。
ラストでは突然、即即でNN(分からな過ぎて調べたけどさすがにここで書くのは憚られるから各々で調べてくださいね☆)ができるソープで働いていながらも、ピルを飲んでいない女子大生の視点に変わりました。選評でも物議を醸していましたが、皆さんはどう読みましたか?わたしは<普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です>と言っていたから、釈華が書いた記事なり小説なりの一つだと解釈しました。ただ、必要だったかと聞かれたらう~ん?という感想です。(序盤にある読書のくだりも物語にどう作用しているのかピンと来なかった)
性のはけ口を探してぐつぐつ煮立っている中年“男性”のオナニー小説って印象を持ちました。これは悪口じゃなく、それくらいの熱量と恐怖と憐れみを感じました。
児玉雨子『##NAME##』
光に照らされ君といたあの時間を、ひとは”闇”と呼ぶ――。かつてジュニアアイドルの活動をしていた雪那。少年漫画の夢小説にハマり、名前を空欄のまま読んでいる。(河出書房新社HPより引用)
冒頭で美砂乃は雪那(せつな)のことを「ゆき」と呼ぶことを提案し、自分のことを「みさ」と呼ぶように強要します。でも、雪那はずっと「美砂乃ちゃん」と呼んでいたため、そう簡単には変えることができず、ずっと「みさ」と呼べずにいます。そのたびに、美砂乃は「みさ」って呼んでくれないことを悲しむわけなんですが、それって「ゆき」の前では美砂乃じゃなくて「みさ」でいたかったんじゃないかなと想像できます。美砂乃だとジュニアアイドルの自分になっちゃうから。
これって、夢小説の『##NAME##』と同じ役割ですよね。わたしはあらすじを知らずに読み始めてすぐに「これ夢小説じゃん」と嗅ぎ取ったわけですが、皆さんは夢小説って知ってるんですか?マンガなりアイドルなりの二次創作の一種で、そのキャラや人物をモデルに小説を書き、相手役を任意の名前に設定して読めるというものなんですけど。雪那は、少年マンガの夢小説を読んでいるけど、名前は空欄にしていると言っていました。(その場合は○○とか##NAME##と表示されることが多い)そこに本名を入れれば没入感が上がるし、違う名前を入れれば線引きができる。
雪那は漢字は違うけど音は本名のまま活動していたので、検索されることでいろいろな人に活動がばれてしまいます。そのことに苦しめられ続けているわけです。それでいじめにあったり、家庭教師のバイトで契約を断られたりします。
知らなければ何も思わないくせに、中途半端に知ったばっかりに、分かったような気でものを言ってくる人もいます。この物語だと、いじめの主犯格の子とか大学の同じゼミの子とか。
ジュニアアイドルは児童ポルノの被害者なのでしょうか?自分の意志とは関係なく男性の性的な視線に晒されて可哀そうだとか、そういう写真を撮られるのが嫌じゃなかったってことは変態なんだとか、好奇と蔑みの目で見られ勝手に想像され介入されるのって「迷惑」だよなと思いました。たしかに、嫌だと思いながらやっている女の子もいるでしょうけど、美砂乃のようにその先を見据えてプロ意識をもって取り組む女の子だっていていいはずです。ジュニアアイドルである前に、意思のあるひとり女の子だってことを考えさせられる物語でした。2人が自分と同世代だったので、物語が入ってきやすかったです。
どちらも「性」を取り扱った作品で、立て続けに読んだのでエネルギーをだいぶ使いました。そもそも最近まったく読書できてなかったので、こんなに集中して文字を追ったことが久しぶりでした。ほかの候補作は持ってないので受賞作の予想はできませんが、乗代雄介さんは過去作をわりと呼んでいるので応援しています。 石田夏穂さんと千葉雅也さんは候補に挙がるたびに読んでみようかなと思って結局読めずじまいの作家さんなので、今回こそと思いつつ。皆さんは芥川賞候補作で何か読みましたか?よかったら教えてくださいね!
それでは、最後までお読みいただきありがとうございます。また来週お会いしましょう。以上、切実でした。
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