#13 切実読書週報
こんばんは、切実です。2023年が爆速でこちらに向かって来ているのを感じる今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。学生は冬休みかしら。仕事を納めた社会人の方もいるのかしら。わたしは、バリバリ31日まで仕事です。2022年も残りわずか、このまま元気に駆け抜けていきましょう!
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2022年ベストブックス【小説編】
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みんなの2022年ベストブックス!
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【有料購読者限定】1月の読書会・課題図書発表【まだ間に合う】
2022年ベストブックス【小説編】
【純文学部門】吉村萬壱『ボラード病』
デビュー以来、奇想天外な発想と破壊的なモチーフを用いて、人間の根源的な悪をえぐるように書いてきた吉村萬壱が満を持して放つ長篇。B県海塚という町に住んでいる小学五年生の恭子。母親と二人で古い平屋に暮らすが、母親は神経質で隣近所の目を異常に気にする。学校では担任に、市に対する忠誠や市民の結束について徹底的にたたきこまれる。ある日亡くなった級友の通夜で、海塚市がかつて災害に見舞われた土地であると語られる――。「文學界」に掲載後、各紙誌で絶賛され、批評家を驚愕・震撼させた、ディストピア小説の傑作。
とんでもない小説を読んでしまった……。病気なのは主人公か母親かこの町か。不穏で奇妙で静かで生臭い物語。お尻、つながり、矯正、同調。白昼夢のような一瞬の幸福から、叩きつけるような虚無と絶望。もう少し咀嚼が必要だな。
図書館で何気なく借り、読んだ本です。国語の教科書のような冷たくて優しい語り口に吸い込まれ、一気に読んでしまいました。じっとりと不穏な空気を察しつつも、「怖いもの見たさ」の野次馬精神で最後まで読み終えたとき、目の前から巨大な岩が猛スピードで転がってくるような、暴力的な絶望を感じました。安全地帯で高みの見物をしていたつもりが、突然海塚市民が全員でわたしを指さしていきたような恐怖。狂っているのは、誰なのでしょう。
【エンタメ部門】小川哲『君のクイズ』
生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される!「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!
クイズ番組を見てて、凡人には到底マネできない知識量と反射神経ダナァ〜と思ってたんだけど、案外テクニックの部分も大きいのね。と、クイズの裏側に感心しつつ、クイズで人生を鑑みるストーリー展開も満足感あって面白かった!誤答を知識にかえていつかの正解を導く!
『本の雑誌』11月号で紹介されていたので買いました。「今話題のエンタメ小説!!」は、あえて選ばない節があるんですが、QuizKnockにハマっていたこともあって、読んでみたらめちゃくちゃよかったです。競技や娯楽としてのクイズをやったことがないんですが(というか、クイズを”やってる”人ってどれくらいいるの?)早押しクイズのテクニックや、クイズ業界・テレビ業界の雰囲気を知ることができて、面白かったです。クイズに強くなるためには、机に座って本を読んだり、勉強したりすればいいわけじゃなくて、世界を、自分の身の回りを、疑問や興味を持って眼差すことが大切なんですね。
【SF部門】柞刈湯葉『まず牛を球とします』
牛は食べたいが、動物は殺したくない。そんな人類の夢が実現した未来を描いた表題作ほか、大正電気女学生、石油玉、現代の箱男などが大活躍! 非人類にもおすすめの奇想天外な作品集。
収録作解題が興味深くて、物語の種って何もない地に水を撒いてみたら芽が出て「そこにあったんだ」って感じで見つけるものなのかもな。
新宿紀伊国屋で購入しました。「東京都交通安全責任課」が好みでした。AIが発展して人間のする仕事は「責任を取ること」くらいしかなくなった未来。労働者でなく消費者として国からの給付金で生活する人がほとんどの世界で、主人公は東京都交通安全責任課で働くことに。そこは、自動運転になってほとんど起こらなくなったはずの車で交通事故が起きてしまった時のために「乗っていた人の代わりに責任を取って辞職する」のが仕事の部署で……というお話。テンポよく進み、オチの「世にも」っぽさも最高でした。
【幻想部門】大濱普美子『陽だまりの果て』
【第50回泉鏡花文学賞受賞!】〈ないことないこと〉が書き連ねられた物語、この世の裏側に窪んだどこにもない場所。魅惑に溢れた異世界へ――時空や他己の隔たりを超えて紡がれる、懐古と眩惑に彩られた幻想譚6篇を収録。〈傾聴ボランティア〉の派遣先で出会った老婦人の作り話とも真実ともつかない昔語りと、主人公の過去現在が絡み合う交感の物語。(「ツメタガイの記憶」)行きつ戻りつ繰り返される、老人の記憶の窓に映る追想。(「陽だまりの果て」)老いを意識し始めた主人公が姉御肌の老女と出会い、かけがえのないものを託される。(「骨の行方」)
読書習慣をつけたい人の参考になるといいな〜!
📚booklist
大濱普美子『陽だまりの果て』
佐治晴夫『この星で生きる理由』
『小説新潮12月号』
1日1時間本を読んだら1週間で3冊読めたよ報告動画
youtu.be/efGyU44qO9o
この動画で読んでいた本です。感想をどこにも出せずにいたのですが、やっとここでお話できます。わたしが一番好きだったのは『ツメタガイの記憶』です。
傾聴をボランティアをしている主人公と嘘か本当かわからない昔話をする老婆の話。老婆は昔、弟と一緒に、死んでしまった虫や鳥、飼っていた犬とかを手作りの棺に入れて、墓を掘って埋葬していたという。話が進んでいくにつれて老婆の思い出?作り話?は思わぬ展開へ……。
というのと並行して、主人公の家庭の様子が描かれていて、わたしはそのパートがとくに面白いと感じました。
主人公には単身赴任であまり帰ってこない夫と、引きこもりの息子がいて、息子が引きこもることになった明確な原因はわからないけどたぶんこれだろう、と思っているあるエピソードがあります。
それは、息子が小学生のころに夏休みの宿題で、虫の標本を作るというものが出たときのこと。庭で見つけたカナブンだかクロコガネが、テーブルの上で暴れるのを息子が顔面蒼白で見つめていたから、主人公はマグカップを虫にかぶせた。カップからは虫の足がかちかちと陶器に当たる音がしていた。翌日も、デパートの昆虫標本展でいくつか見繕い、家に帰って息子と昨日殺してしまったカナブンらしき虫も一緒に張り付けて標本箱を作り上げた、というもの。
息子が引き籠もるになったのは、それから十年以上先の話だから、直接の引き金になったわけではないけれど、最後の一滴で突然何かが決壊してしまうときの、そこに至るまでの長い間に少しずつ溜まっていったものの一部ではあるかもしれないと思う。あのカナブンは今も息子の裡にいて無意識の上に被せた蓋を、内側からずっと引っ搔き続けているのかもしれなかった。
息子は大学受験の時くらいに昼夜逆転になり一緒にご飯も食べなくなった。それでそのままIT関係の仕事を家でするようになって、息子は息子のクレカで基本的な食料品と日用品を注文し配送してくれるようになる。一切手のかからない重病人のような、気前よく家計を援助してくれる居候のような種族に属している。
そんな息子との会話のない庭のシーンが、夏の夜中の草木がしっとり冷たい感じと、月の光で薄ら明るい藍色のイメージが浮かんできて、すごく美しい予感を感じさせてよかったです。
どの短編も言葉が美しく、景色の描写が丁寧で、じっくりと読ませてくれる一冊です。物語に大きな展開はないものの、読み終わったあとには心の奥にきれいな湖ができたような不思議な感覚になりました。
以上が、わたしの2022年ベストブックス小説編となります。選んだあとに読んだ本で「これは!」という本もあるんですが、12月下旬に読んだ本たちは来年の数に入れようと思います。2022年の読了本をちゃんと記録していなかったので曖昧ですが、80冊は読めたんじゃないでしょうか。ブクログに登録されているのはそれくらいでした。来年はちゃんと記録をつけます……。
みんなの2022年ベストブックス!
アンケートにご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!
ラヂオで読ませていただきましたので、大掃除のおともにお楽しみください📻一応、わたしがラヂオを読むのに使った資料を添付します。時間があるときに、みなさんからいただいたコメントも追記していく予定ですが、取り急ぎ基本情報(と、自分のために振った読み方)を書いたnotionを共有します。
【有料購読者限定】1月の読書会・課題図書発表【まだ間に合う】
有料購読者限定で、2023年から月1度の「オンライン読書会」を開催いたします。わたしの開催する読書会はちょっと特殊で、参加者の顔出し・声出しはありません!
本を読む→アンケート回答→わたしがアンケートを読むライブ配信に参加→チャット欄でコメントする、という方法を取ります。なので、読書会ってハードルが高いな~不安だな~と思っている方も、わたしのライブ配信を見に来た感覚で楽しめるようになっています。
先日、有料購読者限定ライブ配信で決まった、第1回目の課題図書はこちら!
山尾悠子!ちくま文庫!幻想文学!とても、切実さんらしい1冊目だと思っています♩短編集ということもあり、とっつきやすい方ではないでしょうか。
開催日は2023年1月22日(日)21時~
参加してみたい!という方は、レターの最下部から有料購読の登録をお願いいたします。読書会だけでなく、ほぼ毎晩の1時間一緒に本を読もうライブも行っています。新年、読書習慣をつけたいという人も、これを機に参加していただけたらうれしいです!
2022年最後の日曜日なので、今年のレターはこれが最後……といいたいところですが、【増刊号】を年内に1通お届け予定です📬2022年の振り返り&2023年のめあて、といった”語り”多め回になりそうなので、年末年始の意外と暇だな~というあの時間にでも読んでもらえれば幸いです🦉
なので、今日のレターはここまで!最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんは、今年はどんな1年でしたか?どんな本と出会いましたか?よかったら聞かせてくださいね☺(レターの返信機能もどうぞ♡)
それでは、また次回のレターでお会いしましょう。以上、切実でした!
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