【#本読む私たち】継実さんのおすすめ本
初野晴『水の時計』角川文庫
全選考委員絶賛の、第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。脳死状態にありながら、月夜の晩に限り意思伝達装置を使って話をすることのできる少女・葉月。彼女は、自分自身の臓器を必要とする人たちに分け与えたいと願っていた。移植問題に深く切り込んだ傑作。
不良少年の昴は、脳死の少女・葉月と出会う。交換条件と引き換えに、彼女の願い「自分の臓器を必要な人々に届けること」を担うことにした。ファンタジー要素とミステリー要素を持ち合わせた小説です。
小学校高学年の時に文庫本を購入し、一番読み返している小説です。購入したきっかけは小学生向け雑誌『小学五(六?)年生』の、小さな本紹介コーナーでした(小学生が読むには重くて難しい話だと思いますが…)。最初は童話『幸福の王子』をオマージュしたこと、昴と葉月の関係性に興味を持って読んでいました。年齢や知識を重ねるごとに、移植医療や非行少年といった社会的トピックス、登場人物の複雑な心情を理解できるようになり、小説という仮想世界から現実を考えるきっかけにもなりました。きっと、今後も読み続けると思います。
ー「死ぬ」ということは、脳死状態なのか、それとも体の機能全部が失われた状態なのか、どうお考えになりますか?
私の視点だと、世間一般的には脳死状態と死ぬことはイコールで繋がるのではと思います。脳が停止すると、いずれは他の器官の機能も停止するみたいなので。ただ、当事者の視点だと変わると思います。少しでも長く生きたい、生きさせたいという気持ちが先走って、無理やり生き続けた先の未来に盲目的になってしまうのかなと思います。(映画『人魚の眠る家』でも同様のことを感じました)死は悲しくつらい出来事ですが、受け入れるタイミングが来るのだと思いながら日々を過ごしてます。
ー葉月にとっての幸福と、昴にとっての幸福。それぞれが何だと思いましたか?
葉月は「昴と再会すること」が幸せだったのかと思います。女子高校生なので、純粋に、好きな男の子に会いたかったのです。一方昴は、臓器を届ける任務を重ねるに連れ、「大切な人を救いたい」という気持ちが芽生えてきたと思います。物語の終盤、幸福の王子のツバメのようにボロボロになりますが、大切な人を思い出し、「まだ希望はある」と認識します。もともと人思いな昴なので、「大切な人の幸せ」が昴の幸せなのかもしれません。
ー 本作は『幸福な王子』のオマージュですが、この『幸福な王子』のラストはハッピーエンドだと思いますか?それともバッドエンドだと思いますか?
『幸福の王子』は確かに読後の受け取り方が変わる作品です。側から見たら切ない物語で、ハッピーエンドとは言えません。しかし、王子の像やツバメは二人で最期を迎えることを選んだ。死を分かっていた二人は、理想的な死の形を選ぶことができたのかと思います。もちろん、二人から宝物を受け取った貧しい家庭も幸せだと思います。『汝、星のごとく』でも悪い噂が立っている家族も、実際に覗いてみると、互いを尊重して幸せに過ごしています。周囲から「不幸だ」と言われる中で、何が自分にとって幸せか、考えるきっかけになる深い童話だと思います。
ー『水の時計』は横溝正史ミステリ大賞を受賞されていますね。この物語は幻想的な雰囲気もあり、SF要素もあると思ったのですが、ミステリやSF作品で何か好きな作品はありますか?
普段はジャンルに縛られず読むことが多いです。『水の時計』もたまたま雑誌『小学五(六?)年生』で出会った作品なので。そう言いつつ、最近はミステリ小説を集めています。2021年3月に刊行されたばかりの『六人の嘘つきな大学生』を購入し、読みました。良い作品と出会ったなあ、と思った一年後、本屋大賞にノミネートされて、「話題を先取りできたぜ!」と一人で盛り上がってました。笑 他にも『教室が一人になるまで』『陽だまりに至る病』が面白かったです。その他気になる本は絶賛積読しています。
あなたにとって読書とはなんですか?
なんだかんだ一生の趣味。読書は幼い頃から好きでしたが、国語が大の苦手で、進学や受験を意識するようになってから楽しむ読書ができなくなってしまいました。しかし、コロナウイルスで外出を控えていた時期に読書を再開し、物語を疑似体験できる楽しさや知識を獲得する喜びを再認識しました。以降、ほぼ毎月5冊は何かしらの本を買っています。夢は部屋の壁一面を本棚にして、持っている本でいっぱいにすることです。
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編集後記
インタビューを進めるにあたり『水の時計』がオマージュ元であるオスカーワイルドの『幸福な王子』を読みました。読後の率直な感想でわりとハッピーエンドだと思ったのですが、そのあとほかの人の感想を読んだり、検索したりしていると「悲劇の物語」「自己犠牲をしすぎてはいけないという教訓」という書かれ方が多いことにびっくりしました。わたしは、王子は「人助けがしたい」という思いを叶えられたこと、つばめは王子の役に立てたこと、そしてふたりが出会い生涯を添い遂げられたことが「幸せ」だと思ったのです。みなさんは、どう感じますか?ぜひ読んでみて感想をお寄せください✉
継実さんには、死生観にまつわる難しい質問をしてしまいました。ですが、とてもしっかりとご自身の考えをもっており、的確な言葉で答えてくださいました。また、答える際にほかの作品を例にあげてくださったのも印象的でした。
企画にご参加いただきまして、ありがとうございました!
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